ポリオプラスの「プラス」がもたらす恩恵
9月. 23, 2019
ナイジェリアのボルノ州で農業を営むムーサ・ムハンマド・アリさんは、ポリオの後遺症により、これまでたくさんの苦難を経験してきました。例えば、家畜の餌を買いに行くときには常に交通費がかかりました。しかし今では、ロータリーのポリオプラス補助金を通じて得た手動三輪車のおかげで、アリさん(写真上)は これまでの交通費をほかの必需品にあてることができます。ポリオプラスの「プラス」部分によって、アリさんの生活は新しくなったのです。
ポリオプラスの目的はポリオ根絶ですが、このプログラムが、ほかにもさまざまな恩恵をもたらしていることをご存知でしょうか。ポリオ根絶キャンペーンの「プラス」部分がもたらす恩恵は、手動三輪車だけではありません。水へのアクセス、医療援助、蚊帳や石鹸にいたるまでさまざまです。2010年の調査では、ポリオワクチンとともに子どもたちに投与されたビタミンAのおかげで、伝染病への感染率が下がり、125万人の子どもたちの命が救われたと推定されています。
ここでは、近い将来に野生型ポリオウイルス根絶おの認定が期待されるナイジェリアにて、ポリオ根絶キャンペーンがいかにさまざまな形で人びとの生活を改善しているかをご紹介します。
病気を食い止める
ナイジェリアの北部では、ボコ・ハラムの反乱により、何百万人もの人びとが住む場所を追われ、栄養失調と病気が蔓延し、ポリオの予防接種キャンペーンの実施が難しくなっています。治安が落ち着いているときには、保健員が、難民キャンプのテント一つひとつに立ち寄り、ポリオワクチンやその他の医療サービスをすべての子どもたちに届けようと懸命に活動しています。写真に写るのは、反乱が10年前に始まったボルノ州の州都マイドゥグリで活動する保健員です。
ロータリーが主要パートナーとなっている世界ポリオ根絶推進活動(GPEI)は、アフリカ地域で予防接種を行う世界保健機関の保健員に支給する資金の91パーセントを支援しています。これらの保健員は、ポリオだけでなく、その他の疾病との闘いにおいても重要な役割を果たしており、85パーセントの保健員が、その時間の半分をポリオ以外の疾病のための予防接種、監視活動、疾病発生時の対応などに費やしています。例えば、ボルノ州の保健員は、ポリオの新しい症例の発見と、その発生地や発生経緯を特定するポリオ監視システムを使い、黄熱病の患者を見つけ出します。これは黄熱病が大流行した2018年にも活用された数多くの方法の一つで、800万人の人びとがワクチンの投与を受けることとなりました。また、2014年にナイジェリアでエボラ出血熱が大流行した際には、保健員がポリオ根絶キャンペーンの手法を使って、感染の疑いがある人びとを見つけ出し、症例を報告された19症例にとどめました。
子どもたちは、たとえポリオの予防接種を受けたとしても、ほかの病気にかかるリスクを持ちます。ボルノ州では、マラリアで亡くなる人の数が、ほかの病気を原因として亡くなる人の数をすべて合わせた場合よりも多くなっています。世界的には、2分おきに子ども一人がマラリアで命を落としています。写真の中でフレラ・イドリスさんが取りつけている蚊帳のように、マラリアの蔓延を防ぐ殺虫剤処理済みの蚊帳が、多くの無料ポリオ予防接種中に配られます。2017年、GPEIでロータリーのパートナーとなっている世界保健機関 は、ポリオ根絶活動の保健員と設備を使って、ボルノ州の子どもたちに抗マラリア剤を届けるキャンペーンを行いました。これは、ポリオワクチンと並行して抗マラリア剤 が120万人の子どもたちに届けられる初めての大規模な活動となりました。
ロータリーとそのパートナーはまた、石鹸を配り、仮設施設でほかの病気の治療も行いました。「場所や環境とニーズに応じて『プラス』部分が変わります。私たちは、不足部分を補おうとしているんです」と、ロータリーでナイジェリア・ポリオプラス委員会の委員長を務めるツンジ・フンショさんは話します。「人びとが子どもたちの予防接種を拒む理由の一つは、私たちが長期に渡って活動していることです。ナイジェリアでは、何かが無料で執拗に行われていると、人びとが懐疑心を抱きます。しかし、予防接種以外のものも提供すれば、これまで拒んでいた家族が子どもたちを予防接種に連れてくるようになります」
ポリオプラスへのロータリアンの寄付は、専門家によるプランニング、ワクチンの効果を人びとに知らせるための大規模な情報伝達活動、戸別訪問をするボランティアの支援に使われます。
地域社会の動員にあたるボランティアは、ナイジェリアで最も到達しにくい集落での予防接種キャンペーンで非常に重要な役割を果たしています。GPEIでロータリーのパートナーとなっているUNICEF(国連児童基金)から選ばれ研修を受けたボランティアは、それぞれの住む集落または難民キャンプに配置されます。そこで、集落の人びととつながりを築きながらポリオについての知識を広め、家族の健康を改善する方法についても指導しています。写真の中のボランティア、ファティマ・ウマルさんは、ハディザ・ザンナさんにポリオの予防接種の重要性を説明する傍ら、衛生や母体の保健など、ほかの健康面についても指導しています。
ナイジェリアのロータリアンは、ロータリーのポリオ根絶活動への支援集めにおいて先頭に立ってきました。例えば、アブジャ・ミニスターズ・ヒル・ロータリークラブ会員のエメカ・オフォルさんとその財団は、ロータリーとユニセフと提携し、保健員のための「Yes to Health, No to Polio」というオーディオブックを作成しました。
安全な水を届ける
安全な水を供給するなど、重要で長期的なニーズに取り組めば、集落の人びととの信頼関係も深まります。ワクチンを投与する保健員は、難民キャンプで時折、不満を耳にします。「必要なのは水なのにポリオのワクチンを持ってくる、と人びとが不満を漏らします」と説明するツンジ・フンショさん。そこでロータリーとそのパートナーは、ナイジェリアの北部に安全な水を届けるために、太陽光で発電される31基の給水ポンプのための資金を提供しました。この活動は現在も続けられています。左の写真に写るのは、およそ5千人の難民が暮らすマディナツのキャンプで、給水ポンプから水を汲む女性と子どもたちの姿です。
貧しい集落に安全な水を届けることは、ナイジェリアだけでなく、アフガニスタンとパキスタンでのポリオプラス・プログラムでも優先事項の一つとなっています。アフガニスタンとパキスタンも、ポリオウイルスの発症が絶え間なく続いている残りのポリオ常在国です。「水の供給も大事な仕事です」とロータリーでパキスタン・ポリオプラス委員会の委員長を務めるアジズ・メモンさんは話します。
GPEIの最終段階の戦略では、ポリオ予防接種を受けた人びとに、安全な水や衛生設備、栄養のある食糧など、切実に必要とされている基本的サービスを届ける活動を促進しています。安全な飲み水の供給もその一つです。ポリオウイルスは人糞を通じて感染するため、ポリオを根絶するには、人びとが汚染水を飲んだり、汚染水の中に入ったりするのを防ぐことが非常に重要です。ナイジェリアでポリオプラス・プロジェクトのコーディネーターを務めるブンミ・ラグンジュさんは、給水ポンプが難民キャンプでコレラやほかの病気の感染も食い止めるのに役立ったと話します。
きれいな水が着実に使えるようになった集落では、病気の感染率が下がり、人びとはより質の高い生活を送っています。「キャンプに来たとき、給水ポンプはありませんでした。近くの工場に水を汲みに行かなければなりませんでしたが、もらえるのは少量なので困っていました」と話すジュマイ・アルハサンさん(左下の写真で子どもを洗う女性)。「水を届けてくれた人びとに感謝しています」
仕事の機会を生み出す
ポリオで身体が不自由になったイシャク・ムーサ・マージさんは、以前は働く機会も限られていました。しかし24歳のときに、身体の不自由な大人と子どものための手動三輪車の組み立て方を学んだマージさんは、その後、手動三輪車を製造する事業を始めました。初めての好機が訪れたのは、地元自治体から試験的に注文を受けたときです。手動三輪車に感銘を受けた自治体からは注文が続きました。最近では、ロータリーのナイジェリア・ポリオプラス委員会が、ポリオサバイバーや身体の不自由な人びとに提供する150台の手動三輪車を注文しました。地元のロータリアンと関係を築いたマージさんは、予防接種キャンペーンでの戸別訪問に参加したいと思うようになりました。
「身体が不自由なことは楽でありません」と語るマージさん。「一人でもポリオの犠牲になってほしくないんです。だから、ポリオ予防接種の重要性を人びとに訴えています」
小さな雑貨食料品店を営むアリュウ・イッサーさんは、自立できることを幸運に思っています。イッサーさんが知るポリオサバイバーの中には、技能研修プログラムを受けても、事業を始める資金がないために路上で物乞いをしなければならない人たちもいます。GPEIでは、ポリオサバイバーに適任の仕事があります。それは、ポリオの後遺症についてほかの人びとを教育することです。
イッサーさんは、次のように話します。「以前路上で物乞いをしていた友人の中には、予防接種キャンペーンの戸別訪問の仕事から得たお金で、小さな事業を営んでいる人たちもいます」
医療を改善する
ロータリーのナイジェリア・ポリオプラス委員会から寄贈された手動三輪車を使うファルマタ・ムスタファさんは、マイドゥグリで数人の保健員とともに予防接種のための戸別訪問を行い、基本的な医療サービスのない地域にポリオワクチンを運びます。UNICEF(国連児童基金)のデータによると、子どもへの予防接種を渋る親を説得するには、ムスタファさんのようなポリオサバイバーによる説得が大きな効果をあげており、ポリオサバイバーは平均で10人中7人の親を説得しています。誤報と噂のために人びとが予防接種に消極的になっている地域では、根絶活動の最終段階でポリオサバイバーが果たす役割が非常に重要です。
「チームと活動を始めてから、地元で予防接種を受ける人びとの数が増えています」とムスタファさん。「活動のおかげで地元でも評価されるようになり、うれしく思っています」
ポリオ根絶キャンペーンのおかげで、命を落としたり、身体まひを患うことになったかもしれない世界中の1,800万人の人びとが現在生活し、歩いています。そして、ポリオプラス補助金で支えられる保健員やボランティアが、医療サービスを提供するためのインフラを整え、これまで世界の大部分で集められなかったデータを収集しています。ポリオプラスの活動が、医療全般の改善とほかの病気との闘いでも既に恩恵をもたらしているのは明らかです 。ポリオプラスの遺産は、死にいたる病気を地球から根絶するだけでなく、世界で最も弱い立場にある子どもたちの命を救うために、より良い医療システムを築き上げることでもあるのです。
この記事は、「ザ・ロータリアン」誌の2019年10月号に掲載されたものです。
すべての子どもを救うために、ポリオ根絶キャンペーンでは支援を必要としています。同キャンペーンへのご寄付をビル&メリンダ・ゲイツ財団が上乗せし、最終的にはご寄付が3倍となります。endpolio.org/ja/donateから、ご寄付にぜひご協力ください。